site_review: 2021-12-09 07:18:46.041549 【小説】砂の女

【小説】砂の女

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【小説】砂の女


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地域社会の共同体の一員として、細々と生活を支える糧を得る何処にでもいる人々。
社会(誰か)は、それらの人々に与えられた責務を全うさせるため、逃げ出さないように何かで縛ろうとする。
その縛りは不条理な条件で人々の自由と生活を切迫する。(=梯子が外された砂で囲まれた穴の底)それに加えて、日々積み重なってきて、必死で対処し続けないと生活を脅かす様々な問題が追い打ちをかけて日々を忙殺させる。(=絶え間ない砂を掻き出す労働と飢え渇き、砂と汗に塗れた不衛生な環境による病)
その中で、この不条理から不意に抜け出そうと抜け駆けする人間を見張る社会(誰か)が居る。
小説上では、これらの描写を含め異質な世界や非日常が描き出されていると感じるかもしれないが、まぎれもなく「砂」を根源とした比喩、隠喩を交えた現実世界の社会の仕組みを描写していることに気づくだろう。
組織団体を通じて、あたかも偶然を装い暗に女性があてがわれる主人公の男。そのちょっとした気の緩みと油断と仄かな期待から、状況を半ばでも受け入れてしまった故に、抜け出せない不条理な蟻地獄へとジワジワと引きずり込まれる。誰もが人生において後戻りの効かない大きな岐路選択に影響しうる状況過程が妙にリアルに描写されている。

このような小説が世界で高く評価されたという事は、どの国、地域でも共通する人間社会の成り立ちにおける琴線に触れる何かが描かれているという点が、非常に興味深い。

この小説を読み終えたとき、いままで開けた日常で感じていなかった閉塞感を現実で感じるような、奇妙な体験ができる。
しかし、それは決して絶望だけではない。
その光を、あなたは見つけられることができるだろうか。
社会の根幹をえぐる問題作。お勧めです。


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